インター・アクションをやるとⅠ
インターアクションを行うことで、机での学習では知ることのできないことを学んでいきます。その例をいくつかご紹介したいと思います。
発音
まず発音です。CEFRのA1レベルを指導する際、発音はいいからとにかく自分の意思が伝わるように話すよう指導する方がいます。外国語を使おうとする時、心理的にきれいな発音じゃなきゃいけないとか思い込んでしまい、恥ずかしがってなかなか口が開かなかったりするため、まずは話すこと、下手でもいいから話してコミュニケーションを取ること!といった考えからだと思います。
しかし、発音が下手だと通じない、違う意味として通じてしまうということがあります。
例えば、英語の場合は子音が重要になってきます。英語を母国語としている国はいくつもあって、その国々によって英語の発音が違う、なんて指導する先生もいらっしゃいますが、その違いについては知らないようです。イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、インド、南アフリカ…発音が違うのは母音であって、子音はきちんと発音されています。子音がきちんと発音できなければ通じないのです。
英語とは違い、日本語を指導する際は母音で苦労します。英語のように子音と子音がくっつくような言語を話している外国人に指導するには、何度指導しても母音を落としてしまうのに苦労します(笑)。まぁ、日本人が英語の発音で、子音が繋がる部分に母音を入れてしまうのと同じですよね。
以上のような理由で、発音に関しては、早い段階から注意するように指導します。
発音を学ぶことでリスニングの能力が上がります。
よく「リスニングはテープを沢山聞いて慣れるしかない!」なんて言われますが、これは一面的な練習方法で、ろくに第二言語を習得していない方が大勢主張する練習方法です。発音を学ぶことでリスニング能力がアップします。
発音の勉強も残念ながら学校ではやってくれません。
中学生のとき、初めてやった英語の授業では発音の練習をしますよね?
ネイティブの先生を呼んだりして。
けど、すぐに文法一辺倒の偏った授業になってしまいます。
そして、それ以降、発音をやりません。私だって発音記号(国際音声記号)が読めるようになったのは、ずっと後になってからでした。
では、なぜ教えないのでしょう。それは、入試に必要がなかったからです。
ところがなんと、その入試に『英語コミュニケーション能力』ってのが本格的に介入してきた!
発音もリスニングも習得しなければならなくなりました。
そこで、私が提案したいのは、まず母国語、つまり、日本語の発音を意識してほしいということです。
調音点と調音法
私が発音に開眼したのは、日本語の発音を学習したからです。日本語教師として外国人に日本語を教えるべく学習しました。そこでの話です。
韓国の学生には『つ』の発音が難しいようです。どうしても『ちゅ』になってしまいます。では、それを矯正するにはどうしたらいいでしょうか?
いくら日本語インストラクターが発音してそれを真似させようとしても無理です。
もちろん機転の利く相手ならマスターもできますが、もっといい方法があります。
それが知識です。
発音を説明するのに、まず2つの知識を覚えましょう。1つは『調音点』もう1つが『調音法』です。参考書によって名称が違いますが、指す内容はどれも同じです。
調音点とは、文字どおり、音をつくる場所のことを言います。
そして、調音法とは音を出す方法を表します。
…分かりにくいですね。
たとえば、『ぱ』の音はどうやって作りますか?そうですね。唇を閉じ、そこから空気を破裂させます。理屈ではそうです。つまり、この『ぱ』の調音法は破裂音といいます。そして、調音点、つまり、音を作る場所は上下の唇です。これを両唇音といいます。その他の情報も含めて日本語の『ぱ(語頭)』を無声有気両唇破裂音といいます。
難しい名前ですね。
覚えないでいいです。
とりあえず、ここでは発音を説明するのに『調音点』と『調音法』があると覚えて下さい。
では、なぜこれらの知識が必要か、見て行きましょう。
先ほどの韓国人の例を見てみましょう。
これを読んでる皆さん、口の形に注意しながら『つ』と『ちゅ』を言ってみて下さい。
どうですか?
『調音点』つまり音を作る場所が微妙に違っているのです!
『つ』の音は上の歯の付け根(上歯茎)のところで音を作りますが、『ちゅ』の音はその奥(硬口蓋)で作るのです。
どうですか?
『つ』の音を作る位置(上歯茎)に舌先をつけて、無理やり『ちゅ』の音を出してみて下さい。
どうやっても『つ』の音になってしまいます。
これが発音です。
口の形を意識するだけで発音は変わっていくものなのです。
『きりんが』『きりんの』『きりんも』と言ってみましょう。
言ってみましたか?
では、次は『きりん』の『ん』の発音の時、自分の口がどうなっているかを意識して言ってみましょう。 いかがですか?
『きりんが』の『ん』は、鼻から息が抜けています。
『きりんの』の『ん』は、舌が口の天井にくっついています。
『きりんも』の『ん』は、両唇が閉じています。
同じ日本語の『ん』でも上の3つは違うのです。
で、英語の『N』の発音は、『きりんの』の『ん』と同じ、舌が口の天井にくっついていると覚えましょう。その口の中の形で『Can I ~』を発音すれば、決して『きゃんあい』とはならず嫌でも『キャナイ』になることでしょう。
音韻論の『同化』『結合』だけでなく、『脱落』も同じです。
filet of fish(白身の魚)
品川水族館(しながわすいぞくかん)
本当の話し(ほんとうのはなし)
filet of fishは『フィレット・オブ・フィッシュ』とは読まず、オブのオを発音するためにフィレットの末尾の『ト』が消滅し、最後のフィッシュのフィを発音するために、同じ『f』の音であるオブの『ブ』が消滅します。
フィレット・オブ・フィッシュ
とすると、聞いたことのある食べ物の名前に聞こえてきます。
品川水族館、実際の日本人が発音する時『しながわすいぞくかん』とは言わず、『しながわすいぞっかん』と『く』の音が促音化して脱落します。また、本当の話しでは、『ほんとうのはなし』よりも『ほんとのはなし』と、『う』が脱落します。
人間が会話(インター・アクション)する際、元の発音が変化する現象は、どの言語でも見られる現象で、会話を繰り返すうちに訓練されて行きます。
LとRの悲劇
では、今度は『つ』を作った場所(上歯茎)に舌先をくっつけて、『う』と言ってみて下さい。これが英語の『 L 』の発音です。
エルのルを言う時に舌を弾いてはいけません。ただ舌先を上歯茎につけるだけでいいのです。
その感じで発音してみましょう。
『エゥ』と聞こえると思います。
日本語でエルと言う時、ルの音で舌を弾きますが、弾かずに上歯茎に舌先をつけて『う』と言えばいいのです。
難しいですか?
…では、
English
…の発音をしてみましょう。
日本語で『イングリッシュ』というとき、『リ』の音で必ず舌を弾いてしまいますが、今のように上歯茎(『つ』を作った場所)に“舌先をつけるだけ(舌を弾かずに)”で『イングィッシュ』言ってみましょう。
練習が必要ですが、成功した時、感動するでしょう。
衆議院議員「 いやぁ~、先週の日曜日の選挙(エレクション)は最高でした!」
米国大使 「!!!!!」
衆議院議員 「もう、泣いて喜びましたよ~!」
米国大使 「そうですかぁ~。それは良かったですね。」
衆議院議員 「ありがとうございます。」
米国大使 「奥さん、喜んだでしょ~(笑)」
衆議院議員 「はい!本当に、長年の夢が適ったと、泣いて喜んでくれました!」
米国大使「そんなにダメだったんですか~」
衆議院議員 「はい。ようやく先週の日曜日の選挙(エレクション)で…。」
選挙:election
×× :erection ←調べてもセクハラで訴えないでください(笑)。
アクセントの悲劇
下手すれば、高校で一度も指導を受けずに終わってしまいそうな発音・アクセントの授業ですが、その『やらない理由』は決して『他にやることがたくさんある』というものではないと思います。インター・アクションを繰り返せば、英会話では発音以上にアクセントが重要だ、ということを知ることでしょう。英語のアクセントはブレス・アクセントと言い、強勢なんて呼ばれます。
それに対し、日本語のアクセントは高低アクセントといいます。
…そう。
日本語(東京語)で、
(鮭)さけ↓ / (酒)さけ↑
なんて分かりやすいでしょう。
ところが、英語の強勢アクセントは日本語よりはるかに深刻で、アクセントを間違えただけで意味がまったく通じないと言う場合が多いのです。
たとえば、中学生のとき、冗談を言ったことないですか?
grandmother
grand ⇒ すごい mother ⇒ お母さん
「すごいお母さんがおばあさんだってぇぇ!」
こんな感じです。
すると英語教師は「すごいお母さんと言う意味はありません。おばあさんです。」という具合に教えます。
この単語も実は強勢をどこに置くかで意味が変わります。
grand mother
…そう、前のgrandに強勢を置き、後ろのmotherを弱勢に発音したとき、『お婆さん(祖母)』という意味になります。
ところがもし、
grand ‐ mother
…のように、grandもmotherも強勢で発音したら?
そうです。
『すごい(偉大な)母』になるのです。
そして、怖いことに、このアクセントを無視して発音する日本人の発音は、ほとんど『すごいお母さん』に聞こえるそうです。
発音が難しかったら、向こうの子供のように『グラン・マ』と言っておきましょう(笑)。
All cats don't like dogs.
All cats don't like dogs.
上が「猫はみんな犬が嫌いだ。」
下が「すべての猫が、犬を嫌いなわけではない。」
I'd like to meet that dancing girl.
「私はあの踊り子と友達になりたい。」の意味。
では、
dancing ‐ girl
…のように、両方とも強勢だったら?
…そう。「踊っている少女」。
…踊り子と踊っている少女はあまり変わらない?なら、これは?
dancing ‐ shoes
dancing ‐ shoes
前のdancingだけが強勢アクセント(上)だったら「踊るための靴=ダンス用のシューズ」。両方とも強勢アクセント(下)だったら「踊っている靴」。
アクセントがいかに大切か、わかりましたか?
イントネーション
アクセントだけではありません。イントネーションによっても意味が変わってきます。この手の話でよく言われるのが、
I beg your pardon.↓
I beg your pardon.↑
…ですよね?
上が「すみません。」
下が「もう一度言ってください。」
日本語で
「ハンサムじゃない」
と言ってみましょう。
ハンサムの「ハ」を高くして、音階を下げながら読んでいくと?
それに対し、平板型で読んでいくと?
イントネーションを変えるだけで、全く反対の意味になってしまうのが分かります。
まだまだいくらでもあるのですが、機会があればブログにでもアップします。
第二言語習得を目指すため、これまでの学習方法を変えなければならない部分があります。そのための発想の転換が必要です。
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