第二言語習得の方法
さて、ここまで文科省の新学習指導要領に示されている英語の学習目標は、CEFRに基づく『第二言語習得』であること、そして、CEFRである以上、言語知識の量を身につけるのではなく、英語コミュニケーション能力を習得すること、ということが分かったかと思います。
そこで、ここでは、そのコミュニケーション能力を身につける方法(授業)について見ていきたいと思います。
英語は本来技能教科です
中学校で学習する教科の中に、技能教科というものがあります。ご存じのとおり、技術家庭、体育、音楽、美術です。その教科の先生たちは、どんな指導をしていますか?実は、本来、英語も技能教科のひとつである、というより、あるべきなのです。
例えば、前項で説明したパフォーマンス評価なんてどうでしょうか?技術家庭の先生、体育の先生、音楽の先生、美術の先生、もちろん定期テストで筆記試験も実施しますが、実技の方がはるかに重要で、その実技を評価するのにパフォーマンス評価を実施します。
では、これまでの英語教育は?
残念ながら、実技の評価なんぞ皆無で、英語がろくに話せない先生たちが、ひたすら筆記試験で言語知識の量を測定してきました。それが、今回の新学習指導要領では、ちゃんと、技術家庭や体育や音楽や美術のように実技(英語運用能力)もきちんと身につけ、評価しましょう!ってことになったんです。
そうなると、もはや英語は技能教科のひとつと呼ぶべき存在でしょう。
ここらへん、前項でもお話しました。
…とはいえ、しばらくは学習指導要領を無視して言語知識の詰込みに専念する英語教師や中学校、高等学校が残ると思います。けど、料理が出来ない先生に家庭科を教わりたくないように、運動が出来ない先生に体育を教わりたくないように、歌が下手糞で何一つ楽器が弾けない先生から音楽を教わりたくないように、画家の知識だの作品の歴史的背景だの〇〇派だのの名称しか知らず、絵など全く描けないような先生から美術を教わりたくないように、言語知識ばかりで英語が使わせない、自分自身も使えない先生から英語を教わりたがる生徒はいないでしょう。
ちなみに、私が兼業している日本語教師のことを、英語ではティーチャー(teacher)とは呼ばず、技能を指導するインストラクター(instructor)と呼んでいます。日本語と言う技能(スキル)を身につけさせるんですね。そう。技能教科の先生たちと一緒なんです。
では、以下、そのインストラクターたちの授業を見てみましょう。
第二言語習得の授業は、以下のとおりにやるのが原則中の原則です。
①導入
|
導入で、 その授業の学習目標と身につけるべきスキルの説明を受けます。 |
②練習
|
コーラス(唱和)、 ペアワークといった方法で練習を繰り返します。 |
③活動 実際、そのスキルをどのような場面で使用するのか、
|
たったこれだけです!
信じられないかもしれませんが、たったこれだけのこと、①~③を繰り返すだけで第二言語習得が出来るのです。たった、とは言え、教える側としてはものすごい高度な教授スキルが必要ですが、それを中学・高校ではやらなかった、というより、やれなかった。保護者から『入試に出ないことはやらないでくれ』と言われ、入試を意識するあまり先生たちの指導が(言語知識の量を競う)受験勉強に偏っていた、だから、第二言語習得が出来ていないのです。
くどいようですが、私は言語知識なんて要らないなんて思っていませんし言ってもいません。言語知識の詰込みに偏ることが問題であると認識しています。
もちろんこれは中学・高校レベルのお話ですが、上のような授業を、否、指導・トレーニング、レッスンをするだけで第二言語習得が出来ます!
CEFRのA1-2レベルでは、とにかく発話して会話をして、沢山間違えて、沢山恥をかいて、めきめき上達してください!
『英語は難しいからぁ~』だの『英語は論理的言語だからぁ~』だの『文型や語順に注意しなきゃ』だのといって、言語知識の詰込みに逃げないでください。
みなさんが日本語を使う時、8文型(12~14文型)を気にして言葉を発しますか?
余計なことなど考えず、ただ練習してください!くりかえし会話をしてください!!
そして、言うまでもなく、全体的な第二言語習得から見ればこれでは不十分です。CEFR-A2レベルもそこそこになり、CEFR-Bレベルが見えてくるとそれを実感してきます。
そこで必要になってくるのが『インター・アクション』です!
日本語は世界で最も難しい言語?
言語には様々な系統があり、その差異によって異なる言語と言語の間には『言語間距離』と言うものが存在します。様々な表現があるようですが、私がこの言語間距離を説明する際は5段階で教えます。言語間距離がもっとも離れた『5』、それが英語と日本語の関係です。
日本語と言語間距離が最も近いのが韓国語で、英語を習得するのと韓国語を習得するのでは、その学習時間が違います。その言語の差違による言語間距離が最大なのが日本語と英語なのです。また、英語とフランス語は言語間距離がもっとも近く、英語と日本語が最も離れています。だから、最難関言語だと呼ばれるのですが、それはあくまでも欧米系の言語を話す人たちから見た基準です。逆に日本語を話す日本人から見たら、言語間距離が最も離れた英語やフランス語が難しいと感じるでしょう。同時に、日本語と言語間距離が近い韓国語、モンゴル語、ミャンマー語を簡単だと考えるでしょう。
難しい?簡単?
いいえ。習得までに時間がかかるかかからないかというだけです。
ちゃんと指導力を持ったインストラクターに指導されれば、誰だってすぐに第二言語習得が出来ます。因みに、プロの日本語教師は、わずか1年で欧米人を日本語ペラペラにしています。漢字を使う中国人なら、わずか1年で日本語検定の最上級に合格することが出来ます。中学・高校の6年間も英語の指導を受けて、全く話せないということが問題なのであって、これは、学校の英語教育が『入試があるから』と言いながら第二言語習得ではなく英語の『言語知識の量』ばかりを点数化して競わせてきたことに原因があります。英語をテーマにした世界規模のクイズ番組でもあれば優勝間違いなしですね!あ、いや、司会者が話す英語が理解できないか(笑)!
欧米人が考えた分類から離れる
次に、欧米中心の言語分類の認識を改めましょう。SVO型言語とかSOV型言語などと言語を分類する方法があります。S(主語)+V(動詞)+O(目的語)の順番になるとかならないとかって奴です。
それによれば、
SVO型言語:英語、中国語等
SOV型言語:日本語、韓国語、モンゴル語等
これを上げて『日本語の語順と英語の語順が違う、だから、難しいんだ』なんていう方がいます。まずはこの認識を改めてください。
これは欧米人が考えた分類で欧米中心の思想です。言い換えれば、欧米人の都合がいいように分類した(解釈した)方法ですので日本語をこの分類に当てはめようとすれば無理が生じます。いいえ。日本語だけではありません。中国語もSVO型だとされますがSOV型で表現する場合もあります。
大学の受験勉強のせいで、外国語をまるで数学の公式に当てはめるかのように教えられたせいで、それが第二言語習得を阻害してしまっているのです。この阻害を否定なさる方がいたら、その人の第二言語習得レベルを確認しましょう。言語知識の量ばかり多くて、ろくにコミュニケーションが取れない方の分析など、有害でしかありません。
日本語には『主語』が存在しない
日本語に主語はありません。こんなことをいうと、国語の時間に必死こいて主語を探させられた皆さんは違和感を持つかと思いますが、日本語に主語はありません。別に国語の先生に喧嘩を売るわけではありませんが、日本語に主語があると思い込んでいるだけです。また、日本語と同じように主語がない言語も世界にはたくさんあります。
英語をはじめとする外国語学習をするのに不都合だからと、主語を設けたのだと私は考えています、というより考えたいです。まさか、欧米人が考えた理屈を真に受けて、全ての言語には主語がある!なんて信じ込んではいないと信じたいものです。
日本語は非論理的言語だが、英語は論理的言語だ?
日本語は非論理的言語だけど英語は論理的言語だ、なんて口にする人もいますが、この考えは誤りですので、もしそう思っていたら改めましょう。このような考え方が第二言語習得を邪魔します。言語というのは『人間という動物』が口から発する鳴き声で、その鳴き声に論理がなければコミュニケーションはとれません。よって、この地球上に存在するあらゆる『言語』と呼ばれるものは論理的であるのです。それを『非論理的』に感じるのは、使っている人間の頭の中が『非論理的』なだけです。英語が論理的だなどと言ったところで、このように思い込みや感覚でものを言う人が英語を使えば英語も非論理的になるのです(笑)。日本語も立派に論理的言語なのです。
英語に5文型なんて言葉があります。だから論理的ですか?
では、日本語は?
ちゃんと文型があります。
日本語は8文型です。
文法を積み上げていく『構造シラバス』においては12文型に細分化し、学者によっては14文型で構造シラバスを組み立てる方もいます。また、前述したとおり日本語は主語がない言語ですので、これらの文型は英語のSVOにあたる構造を持たず、全く別の文型を構成しています。
まずは私たちの第一言語が持つ特質をしっかりと理解し、第二言語習得を目指しましょう!
第二言語習得を目指すため、これまでの学習方法を変えなければならない部分があります。そのための発想の転換が必要です。
Tweet |