新学習指導要領の英語

CEFR

中学・高校の新しい英語教育は、外国語教育ではありません。第二言語教育です。

 文部科学省は、新しい学習指導要領を提示しました。そこに書かれている外国語の指導方針は、これまでの外国語学習ではなく、外国語インストラクターの目には第二言語習得であると映るでしょう。その最大のポイントがCEFR(セファール/シーイーエフアール)です。CEFRとは『ヨーロッパ共通参照枠』と呼ばれる、あらゆる言語に共通してコミュニケーションの能力判定が出来る能力記述文(Can-do)の集まりです。その内容を知れば、今後の英語教育は言語知識の量を詰め込むのではなく、外国語を使ったコミュニケーション能力の育成であることは明らかで、外国語教育ではない、第二言語教育による第二言語習得を目指していることが分かります。
 先ずは、その『第二言語習得』についてお話しします。


第二言語第二外国語の違い

 第二言語に対し、第二国語という言葉があります。これは、大学で学ぶ国語を英語としたとき、英語以外にさらにひとつ外国語を学習するという意味で『第二国語』という名称を使います。
 学生A「オマエ、第二国語何にした?」
 学生B「あ、俺の大学、選択制だからとらなくてもいいの。」
 こんな風に使います。その第二国語と第二言語では意味が違います。
 また、外国語教育と第二言語教育は違うものです。
 では、それらはどのようなものでしょうか?お話していきます。

第二言語習得 私の例

 仕事柄、私は以下の言語を『知って』います。
 日本語、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、ルーマニア語、韓国語、中国語、ベトナム語、ミャンマー語、ヒンディー語、シンハラ語、モンゴル語です。
 このうち、第一言語はもちろん日本語です。
 そして、第二言語は中国語です。
 さらに、第三言語は英語です。
 それ以外の言語は『知って』いるレベルです。
 第一言語の日本語は、日本語を使って『やりとり』ができ、かつ、思考する時にも使う母語(マザータング)に該当します。しかも、外国人に教えられる資格『日本語教育能力検定試験に合格』も持っています。
 それに対し第二言語の中国語は、必要な場合この言語を使用して『コミュニケーション(やりとり)』がとれます。また、第三言語の英語も同様で、状況に応じてこれらの言語を使用してコミュニケーションがとれるのです。これが、第二言語第三言語です。因みに私が英語を第三言語としたのは、私が中国人というわけではなく(こてこての日本人です)、私が受けた英語教育が『外国語学習』であって、『言語知識の詰め込み』に偏り『コミュニケーション(やりとり)』ができる訓練をしてこなかったため、『やりとり』の訓練をしたのは中国語習得後だったからです。
 同様に、ドイツ語も大学では第二外国語であって、『言語知識の詰め込み』の要素が強く第四言語と呼べるレベルには達していません。
 では、それ以外の言語は?
 日本語教師という立場上、学習者の思考言語(第一言語)の基本を知っていれば、指導の際、役に立つということで、以下のシリーズに目を通したレベルです。

ニューエクスプレスプラス(白水社)

 つまり、第二言語第三言語というのは、私という1個人が、誰かとやりとり(コミュニケーション)をする際、第一言語(日本語)以外で使用できる言語のことを指します(ここではその意味でこれらの言葉を使用します)。
 このように考えた時、これまで行われてきた英語教育で身につけさせられた受験のための英語とは、英語を『知って』いるだけだとお分かりいただけると思います。これまでの高校受験、大学受験で偏差値が高いというのは、ただ英語についていろいろ『知って』いるだけのことです。

 

海外の『大卒』は、第二言語を習得している

 一度は聞いたことがあると思います。「グローバル化が進む世界では第二言語習得が当たり前で、それに+(プラス)して外国語を習得している」というお話を。
 私の日本語学校の例をお話しましょう。

●例えば、バングラディッシュ人
 第一言語:ヒンディー語(マザー・タング)
 第二言語:英語
 第三言語:日本語(学習中)

 貧しい途上国で成功(出世)しようとするなら第二言語習得が必須です。特に、かつてイギリスの植民地で現在でもイギリス連邦の一員であるような国では、第二言語として英語が必要不可欠です。ここら辺、日本人の英語学習とモチベーションが違う所以です。そして、さらに第三言語を習得することによって、グローバル化した国際社会で働きます。これが海外です。
 このような例ならいくらでも出すことが出来ます。

●大卒のとある中国人
 第一言語:モンゴル語(モンゴル族)
 第二言語:中国語(北京語)
 第三言語:英語
 第四言語:日本語

●大卒のドイツ人
 第一言語:ドイツ語
 第二言語:英語
 第三言語:日本語(学習中)

●大卒のフランス人
 第一言語:フランス語
 第二言語:英語
 第三言語:ドイツ語
 第四言語:日本語(学習中)

日本の大卒は?
 第一言語:日本語
 第二言語:なし
 第三言語:なし
 第四言語:なし

※因みに、東南アジア某国の大統領夫人だったタレントさんのお孫さんは、第六言語まで習得したそうです。そういう環境で生まれ育ったと言えばそれまでですが、別に人間としての能力の限界を超えたというわけではありません。

 途上国の事情、多民族国家である環境、経済統合した環境等、それぞれのお国事情によって『第二言語習得』の環境やモチベーションが異なります。日本の場合、戦後、高度経済成長を経てバブル崩壊、失われた20年等、特に『第二言語習得』をする必要性は優先順位として低いものでした。第二言語など使えなくても全く(と言っていいほど)問題が無かったのです。
 しかし、これだけグローバル化、国際化した社会では、否応なく日本語以外でのコミュニケーション(やりとり)が求められます。
 そのための『学習指導要領』です。

 

 

CEFRは言語知識の量ではなくコミュニケーション能力を判定する

 さて、このように第一言語の他に使用できる第二第三言語をお話しましたが、当然、使用できる言語実践能力にはムラがあります。私の例でも誇らしげに第二第三言語をご紹介しましたが、これらの言語、残念ながら日本語と同じレベルのコミュニケーションがとれるかというと難しい部分があります。
 バイリンガル、なんて言葉があります。これは私たちの世代では『帰国子女=バイリンガル』という印象が強く、海外に住んでいて日本語以外に英語も日本語並みに話せる人たち、という意味で使っていました。『あの子、バイリンガルよ!』といえば英語がペラペラで、ベトナムからの帰国子女でも英語が話せる!なんて偏見をもったほどです(笑)。
 しかし、バイリンガルとはいえ別に第一言語並みに使用できる必要はありません。また、バイリンガルであっても、特定の分野(カテゴリ)では第二言語によるコミュニケーション(やりとり)が出来ないというのが普通です。コミュニケーション(やりとり)に母語以外の言語が使用できるというなら、それがもうバイリンガルなのです。
そんなことはない。母語なみに他の言語を話せる人間がバイリンガルだ!
 と主張する方がいたら、その人の第二言語を聞いてみて下さい。日本語以外、何もできませんから。できないからこのような幻想を抱くのです。できるなら?このサイトを熟読なさってください。因みに第三言語を習得している人をトライリンガルまたはトリリンガルなどと呼び、それ以上をマルチリンガルなんて呼んだりします。
 母語以外、第二言語第三言語の習得にはムラがあります。そのムラのある言語運用能力を証明する基準(標準)、それが前述のCEFR(セファール/シーイーエフアール)なのです。これは国境がなくなり、様々な第一言語を話す人々が往来するようになったEU統合によって開発されたヨーロッパの『共通・言語参照枠』です。
 ≫『CEFR』関連の本

 

新学習指導要領による外国語教育は、これまでのような『言語知識』の詰込みを中心とした『外国語学習』ではなく、『第二言語習得』を目標とした指導へと変更させた。これは『身につけた知識・スキルを実際に使う』という新学習指導要領の全体を貫く方針と一致した方向です。

 

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