インター・アクション
これまで『第二言語習得』についてお話してきました。①導入→②練習→③活動の順に練習を積み重ね、最終的に『インター・アクション』だとお話しました。ここでは、その『インター・アクション』についてお話します。
実践的な授業
体育や音楽と言った技能教科に近くなったのが英語だ、とお話しました。ならば、当然、その技能を磨いたり判定したりしなければなりません。その技能を使うのがインター・アクション(やりとり)の授業です。教科書で学習する英語では、それぞれ会話が用意され、それを練習していくところから始まると思います。今日はこの場面、今日はこの場面、といった形で学習を進めていきます。『①導入』で、その日の授業で学ぶ英単語を覚え、『②練習』でその日の授業で学ぶ英文法を練習し…。これまで文法積み上げ式の学習に慣れてきた日本人からすれば、体系的な文法学習をせずに進んでいくこの教授法には、かなり不安を抱いてしまうと思います。
しかし、その心配はありません。
その授業その授業で学習する項目項目を『点』と考えた時、これらの授業を積み上げていくことで自然にその『点』が『線』で繋がり、やがて『面』(CEFR‐Bレベル)になって行くのです。
これは、実際にアメリカの公民館などで移民対象に行われている英会話教室でも実証されています。
先生「はい。今週、何か困ったことがありましたか?」
移民「市役所へ行って困りましたぁ~。」
先生「はい。皆さんの中にも同じように困った方はいらっしゃいますか?」
移民たち「(挙手)。」
先生「では、他の方も今後のために今日は『市役所へ行って(英語で)住所変更する練習をしましょう!」
こんな具合に授業が進んでいきます。
be動詞からコツコツと積み上げていってる暇などありません。
アメリカに住んでいる外国人からすれば、英語が使えることが重要ですから。
同様に、私がここで例にしている日本語学校に通う在日外国人留学生たちにも同じような指導を行います。
これが『第二言語習得』です。
しかし、ここで問題が生じます。
それは、教科書に書いてある会話の質問文(或いは、練習する例文)は、相手の答えがあらかじめ想定されている質問文だという問題です。
実際に会話をしてみると思い知るでしょう。 想定された返事なんて返ってきません。
Do you like Sushi ?
なんて一生懸命覚えて使ってみても、
Yes,I do.
と答えてくれる人が何人いるでしょうか。
そこでこれらに対処するトレーニングが必要です。
それが『インター・アクション』です。
インター・アクション(インタラクション)とは?
『インター・アクション』とは、定義的には『教師と学習者、学習者同士でのさまざまな情報のやりとり』とされ、『学習者によって積極的に作り出されたインターアクションは、インプットの理解可能化を促進する。質問したり、相手の発話を注意して聞いたりすることによって、一旦は理解不可能であったインプットも理解可能にされていく。また、意味を理解するためのインターアクションでも、具体例を出したり言い換えたりして、相手が何を意味しているかについて交渉するような形で相互の理解を進めていくことができる。』と説明されています。また一言『やりとり』と訳したりもします。要は、実際の現場に飛び込め!ということです。
教科書どおり、パターンどおりに学習する(パターン・プラクティス)域から、全く想定されていない会話が存在する世界で『やりとり』をし、訓練していくということです。
この繰り返し、このトレーニングを積むことによって第二言語習得が進んでいくのです…って、偉そうに言ってますが、これを聞いて『なぁんだぁ~』って思う人がほとんどでしょう(笑)。けど、その重要性を思い知っていないがゆえに軽く見てしまうようです。
また、時々「英語が上達するためには、英語で考える癖をつけろ!」なんて主張する先生がいらっしゃいます。そういう主張も分からないでもないですが、その先生は、本当に第二言語を習得しているのかと疑問を持ってしまいます。 インター・アクションを繰り返していくうちに、受容(読む・聞く)した英語を日本語に翻訳して理解し、その返事を英語に訳して産出(話す・書く)という一連の工程が面倒くさくなり、いつの間にか英語で思考している、というのが私自身の体験です(その初体験が中国語でした)。
そう!
第二言語習得には、まず『言語知識』が重要。その次に4技能トレーニング、そして、インター・アクションです。50分机に向かって眠くなるような先生の講義を聞くよりも、ネイティブ・スピーカーとわずか5分、インター・アクションする方が、遥かに第二言語習得が出来るのです。
その必要性をしっかりと認識しましょう!
インター・アクションの方法
さて、インター・アクション、どこでやればいいのでしょうか?因みに私の日本語学校では、日本語学習者たちに『インター・アクション』を行わせるため、学校行事を利用しました。
基本、学校行事って楽しいでしょ?
楽しいから会話が弾むんです!
ジュースとお菓子を買ってきて、パーティーをするのだっていいんです!
楽しくおしゃべりするんです!
…日本語学習者たちが日本語で。
はい。英語学習者たちが英語でやればいいんです。
楽しくてテンションが上がればなお良し!
自分の気持ちが伝えられずにうずうずしてたらなお良し!!
想定されていない返事を聞き、更に言語習得を進めていく、それがインター・アクションです。
ただ、日本語学校の場合、先生たち、事務職員たち全員が日本人ですから、周囲は全て日本語です。
けど、中学校では?高校では?
難しいですよね。
『校長判断』とか言って、
「10月31日は学校全体でハロウィンパーティーをしよう!ただし、英語以外話してはいけない!」
なんてやったら最高のインター・アクションになるのですが、他のページにも書いたとおり、日本の大卒は第二言語を習得していません。ですので厳しい(というより絶望的)でしょう。
まぁ、学校の英語の先生たちも大変ですよね。
けど、考えてみれば、泳げない(英語が話せない)先生が、泳げるふり(英語が出来るふり)をして水泳(英語)を教えて来たのが、この教育改革で『先生自身、ちゃんと泳いでください!』となった。ところが、実際は泳げない(英語が話せない)先生どころか、水が怖い(外国人と英語で話すのが怖い)先生だったなんて例もあるようです。
不幸なのは未来ある学習者(生徒)の方です(笑)。
…で、最近ではオンラインが発達し、Skypeを使って個人的に海外の友達とオンライン通話(インター・アクション)をする向上心旺盛な学習者もいるようで、本気で探してみればインター・アクションが出来る機会なんていくらでもあります。
ぜひ探してみましょう!
因みに、前述のCEFRカテゴリごと、どの学校行事(イベント)でどのCEFRカテゴリを評価するか、私のところでは一覧表にしましたので、ご参考までにご覧ください(クリック/タッチすると画像が開きます)。
くどいようですが、「日本語教育と英語教育は違う!」などとくれぐれも考えないでください。今ここでお話しているのは、世界基準(標準)となりつつあるCEFRと、第二言語習得のお話ですから。
第二言語習得を目指すため、これまでの学習方法を変えなければならない部分があります。そのための発想の転換が必要です。
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