歴史総合『日本の夜明け』
20年以上昔に日本語学校で私が行った『日本留学試験・総合科目』の授業を、私は『歴史総合』の源だと考えています。その実際に行った授業の1例を『脚本』表現でお送りします。
幕末~明治の日本
私の第一声
私 『坂本竜馬を知らない日本人はいない!』
けど、彼ら(日本語学校の外国人留学生たち)は全く知らない(笑)。
歴史マニアが知っているくらい。けど、歴史マニアほど戦国時代が好き。
特に『信長の野望』(爆)。
上野の西郷さんの銅像、わけも分からず犬を散歩させているおじさんの前で写真を撮るのが静かなブーム(笑)。
だからの『総合科目』。
それでいろんな話をしてやる。
男子学生なら、その歴史的背景と幕末の志士たちの志に心打たれるのだが、女の子にはちょっと…ってことで、
私 『彼は女子高校生にも人気があって~。』
みたいな話も交えて続ける。
私 『写真は格好悪いけど、イケ面だったみたいだよ、土方さん。』
吉田松陰、坂本竜馬、西郷隆盛、勝海舟、大久保利通、高杉晋作、それぞれの人物を中心に歴史の流れを説明し、生麦事件、長州藩、薩摩藩、下関砲台占領、薩英戦争、新撰組、薩長同盟、大政奉還、王政復古の大号令、キーとなる言葉が印刷されたプリントを元に解説と時代の流れを説明する。
始めは遠巻きだったのが、やがて身を乗り出して聞き入ってくる。
『そんな日本人たちがいたのか!』とばかりに関心を持ち始める。
誰も寝ない90分。
私語は…あるけど、私の説明に対する議論や疑問をお互いに投げかけている状態。
授業が進み、歴史はクライマックスへ。
鳥羽伏見の戦い、戊辰戦争の流れ。
江戸総攻撃開始の直前、官軍に乗り込んで来たのが勝海舟。
私 『勝海舟が、私の理想の先生です!』
西郷隆盛と勝海舟の会談の後、江戸城無血開城が行われた。
この時、いろいろな話がなされ、いろいろな説があるけど、私が一番大きいと感じたのは外国の干渉。
官軍の後ろにはイギリスがついている。
江戸幕府の後ろにはフランスがついている。
もし江戸城総攻撃となって戦火を交え、危機に陥った幕府がフランスに救援を求めたら?
それに対抗すべく官軍はイギリスに救援を求め、それを口実に、英・仏が日本へ干渉しただろう。
これって、どこの植民地支配も同じ構造だ!
こんな話だって、勝・西郷会談でされたと思う、いや、しなくてもお互い知っていたと思う。
この話を聞いただけで、外国人学生たちの目の色が変わる。
ずっと意識して話すのは、勝海舟だけでなく様々な人物の物語り…。
終わる頃には、それら歴史上の人物のファンができている。
卒業前になると、この学校では和服の着付け教室と言うのが行われる。
この授業を受けた留学生たちは、その着付けで、和服を着た男子留学生は、皆が皆、坂本竜馬のポーズで写真に写る。
和服を着た体格の良い男子留学生が『犬がいません!』と口にして周囲を笑わせる。
それほど影響力のある授業。
留学生『(事件名)〇〇があったから日本は~。』
留学生『(人物名)〇〇がいたから日本はアジアで唯一植民地支配から免れた。』
授業では、興奮しながら思い思いのことを口にする。
それは、様々な人物の思いが交錯して出来上がる『三国志』を読んだ後のよう。
彼らが全く知らなかった日本の姿を教える!
そして、幕末・明治維新ファンが大勢誕生する!!
…っつうか、ここら辺の歴史、普通に熱くなるもん(笑)。
余裕があれば西南戦争まで話を進め、そして、彼らの思い思いの疑問にこたえつつ、時計を見ながらタイミングを計る。
終了間際のタイミング。
時計を見ながら、最後のメッセージ(対話式)。
この話はプリントには載せていない…。
戊辰戦争では多くの“名もない兵士たち”が命を落とした。
こんな話題に、
留学生『そうです。中国でも革命や解放戦争で活躍したのは将軍ではなく、名前も知らない多くの兵士たちでした。』
…みたいな反応が来る。それを誘う。
そして、
私 『この戊辰戦争で死んだ名もなき兵士たちは、今、どこにいますか?』
…の質問に、
留学生『○○墓地!』
留学生『天国!』
私 『いいえ。天国ではありません。』
留学生『いいところ(笑)!』
…と、突然の質問に戸惑う留学生が、知ってる日本語を適当に口にし、その答えにみんなが笑う。
すると、愛国心の塊のような堅物美女の韓国人留学生がヒステリックに叫ぶ!
女子留学生『みんなふざけないで!!違います!!国のために死んだ人たちは英雄です。私の国では英雄を祀る場所があります!!』
…ほぉ、幕末ファン誕生(爆)。
一斉に、日本の救国の英雄たちを笑った真面目な留学生が非礼に気づき、
留学生『そうです!国のために戦って死んだ英雄です。地獄へは絶対に行きません。』
留学生『はい。私の国でも祖国のために戦って死んだ名前のない兵士たちは、記念の場所(ママ)に祀られます!』
留学生『私の国では、専用の国立墓地があります。』
口々に、救国の英雄たちの美談を始める。
“愛国教育”を受けて育った国の連中は、『救国の英雄話』に敏感。
半ば興奮気味に自分の考えをぶつけてくる。
私 『はい。日本でも祀られています。そして、兵士だけでなくさっき話した吉田松陰や坂本龍馬、高杉晋作もそこにいます。』
目を輝かせて聞いてくる留学生。
留学生『それはどこですか!!!?』
留学生『会いに行きたいです!』
そんな純朴な韓国人、中国人、東南アジア人留学生たちに対し、
私 『はい。実は彼らは今ここにいます。』
…と言いながら、ホワイトボードに写真を貼る。
私 『 靖国神社です。』
チャイムの音