新学習指導要領の英語

CEFR

CEFRを知らなければ、2025年以降の大学入試で後悔します!

 文部科学省が新学習指導要領でCEFRを提示し第二言語習得を目指しているとしたら、当然、2025年1月の試験から改訂される大学入試にも大きな影響を与えることでしょう。この文科省の意向についてCEFRを良く知らない人たちが『英検〇級を取ればいいんだ』なんて信じこんでいるようですが、これは大きな誤りです。文科省が提示した外部試験のレベルは『CEFR換算した目安』の例として出したに過ぎないのです。
 このような誤りを盲信し、2025年になってから焦っても遅すぎるので、まずはこのCEFRを知ることからはじめましょう。

コミュニケーション能力を判定するのがCEFR

 以前、中学2年生から英語の質問を受けました。
 「swimming(動名詞)とto swim(不定詞の名詞的用法)は何が違うんですか?」
 と聞かれ、
 「実は全く違う」
 と話しました。その際、以下のような例文を示して説明しました。

 I like swimming but I don't like to swim.

 動名詞と言うのは、抽象的、習慣的、一般的な概念を示し、不定詞は、具体的、臨場的、個別的な概念を示す、…なんて難しい説明はしませんでしたが、要は、動名詞swimming)はそれ自体が名詞となっていて、ここで言うなら『水泳(スイミング)』を表している。それに対し不定詞to swim)は、今まさにここでこれから『泳ぐこと』を表しているのだと説明しました。
 だから、例文を訳すと

『俺、水泳は大好きだけど、今泳ぐのは嫌だ』

 みたいなニュアンスとなり、例えば、クソ寒い冬に彼女のマフラーが風に飛ばされて海に落ちてしまった。それを見て彼女が「ねぇ、あんた水泳選手でしょ?ちょっと取ってきて」と言った(なんてことありえませんが・笑)。それに対し苦笑いした彼氏がこんな返事をするんだよ、みたいに説明しました。
 そこにいた中学生たちはとても納得したようですが、すぐに「なぜその違いを教えないのか?」と、質問、というより文句を言われました。
 教えない、と言うより、初級段階では他に覚えることがたくさんあるからだ、みたいに言い訳をしましたが、これまでのお受験英語ではこの違いを重視していない、或いは、お受験英語で育ったオジサンオバサンの世代はこの違いを知らない、と言うのが現実だと思います。
 けど、とりあえずここでは「初級段階では同じだ」で覚えておくの!みたいに誤魔化したのですが、さらにくらいついてきた中学生がいて「なぜ初級段階では『同じ』で教えるのか」と突っ込まれました。
 そこで、私から彼らに聞いてみました。
 「知りたければまず、日本語の『見つける』と『発見する』は何が違うのか?」

英語も日本語も同じく人間が発する言葉

 英語で疑問に思ったら、まず自分たちの場合を考えてみるのが一番でしょう。そのためには、自分たち自身の言語を知る必要があります。
 日本語の『見つける』と『発見する』の違いについて聞かれた中学生たちの反応は、一様に『何となく違う』といったものでした。この反応は別に中学生たちだけでなく、大の大人たちだってそうだと思います。その違いを無理に説明しようとするなら、

 見つける下一段活用動詞
 発見するサ変複合動詞

 となるでしょうか。

 ご存じのとおり、これは学校教育で教える国語文法であり、日本語コミュニケーションの文法ではありません。こんな知識、お受験では偏差値を上げられるでしょうが、日本語コミュニケーションには何の役にも立ちません
 この違いをきちんと説明する(といより学習者に内在化させる)のが日本語インストラクター(日本語教師)なのですが、ここでは日本人の中学生相手でしたので、「この2つの違いは何となくわかる。要は、どんな場面で使用しているかだろ?」みたいな説明をし、その違いは大人になるにしたがって理解できるようになっていく(はず)と説明しました。

 そう。
 正に、ここがポイントなのです。

 これまでのお受験英語では、さも数学の公式を覚えるかのように英語の文法法則を丸暗記してきました。けど、英語を人間同士が想いや考えを伝え合うためのコミュニケーションツールとして捉えた場合、この違いはとても重要なのです。
 形の違いを理屈にした文法知識言語知識)の量ではなく、このような違いをしっかりと身につけ、その言語を使用した時どのように相手に通じるか、それを考えてコミュニケーション出来るかを判定する、それがCEFRなのです。

コミュニケーション能力における文法能力

 前述『見つける』と『発見する』の国語文法上の違いは日本語コミュニケーションの役には立たない、と言いましたが、だからと言って文法知識は必要ないなんてことはありません。日本語教育においてもきちんと文法を教えます。ただ、入試で点数を取るための国語文法とはかなり違った、日本語でコミュニケーションが出来るようになるための文法です。

 第一グループ動詞五段活用動詞
 第二グループ動詞上一段・下一段動詞
 第三グループ動詞カ変・サ変動詞
 
 …なんて具合に説明を始めると長くなるので、とりあえず日本語教育でも文法を教える例としてお話しします。
 それで、このグループ分けをダイレクトメソッドでひたすらトレーニングさせます。なぜなら、まずは使えなければ(発話できなければ)意味がないからです。
 そして、この知識と技能(スキル)を身につけて(学校の英語教育で言うなら新学習指導要領では『知識及び技能』と呼んでいます)、次の段階の活動(アクティビティ)へと移行(学校の英語教育で言うなら新学習指導要領の『思考力、判断力、表現力等』にあたります)します。
 この『アクティビティ(新学習指導要領では『言語活動』と呼んでいます)』で求められる文法能力とは、言語知識的な文法規則だけでなく、様々な要素、例えば、発音文字表記語彙の知識等を含めた『正確に言葉を使う能力』という、広い意味での文法能力です。前述の『見つける』と『発見する』の違いなんてのは、この『正確に言葉を使う能力』としての文法能力に含まれるのです。

 宝物を 見つける。
 宝物を 発見する。

 結婚相手を 見つける。
 結婚相手を 発見する。

 上の2例を、外国人の日本語学習者に分かるように説明できますか(笑)?
 普通なら、考えたこともなかったというところでしょう。しかし、コミュニケーションにおいては、この違いを使い分けることはとても重要で、日本語学習者である外国人にもきちんと教えなければなりません。説明もできない人間が「何となく違う」とか「微妙に違う」なんて説明をしますが、何となくでも微妙でもなく実は全く違うのです。
 しかし、『見つける』が導くヲ格の必須成分がヒトの場合とモノの場合の違い、『発見する』が導くヲ格の必須成分がヒトの場合とモノの場合の違い…なんて指導をするには、『基礎段階の言語使用者』の『学習を始めたばかりの者・初学者(CEFR-A1)』段階では難しいのです。それで、ひとまず「同じと思っていてください」とか、「詳しくは辞書で調べて下さい(誤解される場合もあるので危険ですが)」と指導します。
 これを前述の英語の話しで言うなら、動名詞不定詞違いです。
 この違いについてきちんと学ばなければ、正確なコミュニケーションなど望めないことが、この日本語の例から想像できると思います。ここら辺を新学習指導要領では『言語の働き』と表現しています。
 この考えで言うなら『want to ~』なんてのは『不定詞の名詞的用法』なんて前述の国語文法のようなコミュニケーションには役に立たない教え方はせず、『モダリティ』の範疇で教えるべきでしょう(だからそれまで中2で習ってたのが中1で習うようになったんですよ・笑)。

求められる英語能力

 このように、国語で言うなら〇段活用動詞だの、英語で言うなら動名詞、不定詞の〇〇的用法だの、コミュニケーションには役に立たない(知識としての)文法事項を必死に暗記するより、きちんとコミュニケーションに役立つ文法能力正確に言葉を使う能力)を身につける(トレーニングする)ことが大切です。
 そして、それを実際に運用する(使える)能力を判定するのがCEFRならば、これら身につけることが重要になって行きます。それが、今後、目指す英語教育・英語学習となって行くのです。


2025年以降、言語知識の量を競う入試は消滅していくでしょう。CEFRを参考にしたという新学習指導要領に従うなら、『第二言語習得』を目指さなければなりません。そこで、次は先ずそのCEFRの中身についてお話したいと思います。

 

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