新しい教育

2020年学習指導要領改訂から、今、求められるもの

 あまり難しいとウンザリするので簡単な例を出してみましょう。
 小学校の算数です。

◆知識◆
 直線 l と m が平行の時、この2本の直線に交わる直線がつくる角アと角イは同じ角度になります。これを『同位角』と言います。

 

同位角

 

 …って、小学校の時に習いましたよね(名称は中学校で学習)?忘れちゃいました?
 懐かしいですよね。そして、その角と向かい合う角、角アと角ウ、角イと角エ、これも同じになります。
 これを『対頂角』と言いました。

 

対頂角

 

 …ってぇことは、早い話が角ア、角イ、角ウ、角エは全て同じってことです。

 

全て同じ

 

 なら、角ウと角イの2つのペア、これにも名前がついていそうですね。
 そう。
 これが『錯角』です。

 

錯角

 

  思い出しました?


◆問題◆
 さて、それでは、この性質を頭に入れて、次の図の角X(エックス) を求めてみましょう!

 

問題

 

 先へ進む前に、暫く悩んで下さい。

 如何ですか?
 もう忘れてしまいましたか?
 降参ですか?
 では、答えの解説と行きましょう。

◆解説◆
 この図をただ眺めていただけでは答えは出ません。
 下のように角X(エックス)の頂点を通って、直線 l と m に全く平行な直線(n)を入れてみましょう。

 

直線(n)

 

 線を一本入れることですぐに分かると思います。如何でしょうか?
 錯角は等しいから、 角a と【35°】は等しい。
   ∠a = 35°

 また、同様に錯角は等しいから、角bと【38°】は等しい。
   ∠b = 38°

 つまり、∠a と ∠b を足せばいいから、
   35°+38°=73°

 そうです。答えは73度です。
 簡単ですね。

 この問題を悩んでいる人を見て、『簡単じゃん!こんなことも知らないの?』と感じたかもしれません。『こんなものも出来ないの?馬鹿じゃん!』と思ったかもしれません。
 しかし、その前によく考えてみましょう。
 実は、この問題、本当は非常に難しい問題なのです。おそらくほとんどの人が解けないでしょう。特に、自分は頭がいいと勘違いしている受験生には、まず解けない問題でしょう。
 それは、どういうことでしょうか?
 『簡単だ!』と感じた方に問います。
 あなたは、なぜ『簡単だ』と思ったのですか?
 それは、自分の頭が良いからですか?
 よくよく自分を振りかえって下さい。なぜ簡単なのですか?
 そう、『教えてもらったから簡単』なのです。
 『こんな問題も分からないのか?』と感じたあなたも振り返って下さい。この問題と初めて出会った時、あなたは自分から答えを導き出しましたか?そうではなく、『ここに線を引くと分かるよ』と、先生に教わったから簡単なんじゃないですか?
 教えてもらえば誰でも出来るようになります。それは頭が良いことの証明でも何でもありません。『教えられた』ことを覚えていたから簡単なのです。
 『教えられた』から解けたのであって、『頭がいい』から解けたのではありません。 本当に頭の良い人は、人に教えられなくてもあれこれ思考をくり返し、直線を引くことを発見し、正しい答えを導き出すことができます。『◆知識◆』の部分を教えただけで問題が解けてしまうのです。
 やり方と答えを誰かに教えられなくても『与えられた条件から、自分で思考し、自分で判断し、正しい方法を見つけ、正解を導き出す』ことができるのです。こういう人間を『頭がいい』というのです。
 無理?
 そんなことはありません。
 あなたが無理なだけ、いや、最初からあきらめてしまっているだけです。
 現実には『頭がいい』人が沢山います。やり方と答えを教えずとも自分で正解を導く小学生は沢山います。何人に1人という統計を出したことはありませんが、必ず『頭の良い子』はいます。私が授業する時、『これだけで解けたらジュースをおごるぞ!』と宣言し、今までに何本おごらされたことか!!
 やり方と答えを教えずとも解けてしまう能力を、『ひらめきがある』とか『カンが鋭い』なんて言い方もします。しかし、何もないところからひらめいたりはしません。普段から『思考』の訓練をして初めて『ひらめき』も得られるのです。思考の訓練もせず、ただ教えられたことを覚えて来た頭では、教えられた範囲のことだけでしか考えられません。そこからは、新しい発想や創造など生まれることはないでしょう。
 一方、思考の訓練をした頭の良い人間なら、教えられたことだけに囚われず、あらゆる可能性を考え思考します。柔軟に、しかも自由に発想することができます。
 そこに決定的な違いが存在します。
  学習塾へ行けば問題の解き方を教えてくれます。それを真面目に聞いてくり返し努力すれば『お勉強』の成績は伸びるんです。けど、それは決して『頭が良くなる』ということではありません。よく勉強をすれば頭が良くなると勘違いをしている方がいますが、間違いです。ただ教わったことをくり返しできる能力がつくだけです。必ず『思考』という訓練が伴わなければ、頭は良くならないでしょう。
 つまり、
 『勉強が出来る』=『頭がいい』とは限らない
 のです。
 …強いて言うなら、『説明が理解できるおりこうさん』という程度です(…って、教える側は、これが大変なんですが)。

 これは有名私立高校の入試問題だろうが同じです。
 当然、私がいきなり東大の数学の問題を見せられたって、解けるわけがありません。なぜなら、それにむけた『お勉強』をしていませんから。けど、ただただ教えられたことをひたすら覚え、お勉強を積み上げて行けば解けるのです。別に『ドラゴンなんとか』の不良たちだけではありません。頭をよくしたければ、それとは別に『考える』という訓練をしなければならないのです。
 そして、その訓練は何も学校のお勉強に限ったことではないのです。いや、学校にしろ学習塾にしろ詰めこむので精一杯ですから、『考える訓練』かというと、はなはだ疑問です。その証拠に、学校のお勉強が出来る奴ほど、ロクな思考が出来ない人たちですから。
 さて、今の話はあくまでも算数での話です。
 ですから、やり方を教わるまで正解を導き出せなかったからと言って、『頭が悪い』とは断定できません。生理的に算数が嫌いな人もいれば、たまたま調子が合わない場合だってあるでしょう。
 私がここで言いたいのは、あくまでも『やり方を教わらなくても、与えられた条件から思考して結果を導き出せる』人間が『頭がいい』ということです。その例として算数を出しました。
 そう。
 この能力を使うのは、算数だけではありません。あらゆるジャンルに通じています。その中の自分に合ったジャンルにおいて『自分の頭で考え、判断し、正しい答え』を導ければ良いのです。
 実は、これが新しい学習指導要領改訂で求められている能力なのです。
 そう。これは、今後の人生に必要な能力なのです。

 これまで『正解』が用意された問題をクイズ形式で解く試験が主流でした。しかし、文科省ははっきりと言っています。これまで学んだ(暗記した)知識を使って初見の問題に対する能力をみる、と。
 与えられた初見の課題に関する自分が学んだ知識・情報(前述の例で言うなら『同位角』『対頂角』『錯角』にあたるもの)を元に、正しい答え、つまり、自分なりの正解を『思考』するのです。
 これが新しい教育改革、入試改革です。
 人生で言うなら?…誰も教えてくれませんよ。
 大人や先輩たちは、当然、君たちより長く生きています。だから、ある程度の知識と経験があり、アドバイスをすることができます。しかし、そのアドバイスが正しい保証などありません。人生に訪れる問題は、算数のように正しい解答が用意されてはいないからです。
 最終的には自分で考え、判断しなければなりません。
 アドバイスをくれた人の言うとおりにした結果、大失敗して、そのアドバイスをくれた人に抗議したところで、決して責任なんぞ取ってくれません。『おまえが悪い』と言われるだけです。
 最後に頼れるのは、決断を下すあなた自身なのです。
 自分の頭で考え、判断する能力…。
 この能力こそが、あなたの人生を輝かせるのです。

 

新しい教育では、この『考える力』を育てることが目標となります。

 

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